2016年2月21日

冷却河川(2)

という訳で、河口の末端部分である海との境目を見るため、海岸を歩いて河口部へ向かうことにしたのである。こんな所には誰も来ないであろうと思って車を走らせていたんだが、何と私以外にも何台もの車が海岸へ向かっており、また何台かは海岸から戻って来ているのである。

こんな真冬の海岸で一体何の用事があると言うのだ?ここは近くに漁港はあるものの、景勝地でも無いし交通の便が良い訳でも無い、ましてやレストランも無くトイレさえ無さそうな所であり観光客などが立ち寄るような場所では無い。まあ最近は漁港近くの市場などで新鮮な海産物を買うのが流行っているらしいが、ここの漁港にはそんなものは無さそうだし、第一この車達が向かっている方向は漁港とは反対である。

何も無い海岸へ向かう車達、不思議だ…。

海岸から50m付近の駐車スペースに車を止め、防寒着を着込んでカメラを片手に海岸へと向かった。気温はそれほど低く無いものの、風がかなり強く吹いており結構寒いのである。半分凍結した砂浜へ辿り着くと、そこには驚くべき光景が広がっていたのである。

辺り一面の氷
夏に訪れると一面の綺麗な砂浜なのだが、今は砂では無く氷浜とでも呼ぶべき光景であった。こぶし大の氷からサッカーボールくらいのもの、果ては流氷のような半畳くらいの板状の氷の塊まである。これらが無数に浜辺に敷き詰められていたのである。

キラキラ光る氷の塊
板状の氷塊
陽が傾いて来たので、斜めから差す光に照らされていくつもの氷塊がキラキラ光っている。どうやら、この氷を見るために観光客が来ているようである。駐車中の車を見ると、奈良ナンバーやレンタカーばかりだったので、道外の人達なんだろう。

さて、この氷の正体は意外にもあっさり判明したのである。それは河口付近で川面の氷が海に流れ出し、波によって浜辺へ打ち上げられたものであった。

浜辺に打ち上げられたばかりの氷塊

河口から海へ流れ出す氷塊と打ち上げられる氷
このように、今まさに流され、打ち上げられる過程が目の前で繰り広げられていたからである。へえ、こんな現象が起こっていたんだ…。私の予想では、河口部の川面の凍った部分が割れてどんどん海へ流れ出すだけだと思っていた。そして、その流れ出して行くさまをこの目で見ようと思っていたんだけれど、まさかその続きの現象があるとは思ってもみなかった。

打ち上げられた氷を観察していると、河から割れたばかりの板状の氷がそのまま打ち上げられたもの、河から流れ出した氷が(たぶん)沖合いで波に揺られ、氷同士がぶつかり合って角が取れてボール状になったもの、角が取れずに鋭角な角を残した角張った氷、浜辺に打ち上げられた後に太陽に融かされて氷同士が固まったものなど、多種多様な氷があったのである。

河口付近のgoogleMapにイメージを描いたもの
河口部はこんな感じで結氷しており、海との境目部分は氷が割れて次々に海へ流れ出て行っている。そして風向きによってはすぐさま海岸へ打ち上げられるものや、流れ出す氷の量によっては沖合いに、まるで湘南海岸で漂っている無数の海水浴客のような状況になっているものがあり、そしてそれらが満潮時に一気に海岸へ打ち上げられるのであろう。

タンチョウ型の流木

北極海のような光景

ペンギン型の氷

氷二段重ね
 1時間ほど写真を撮ったり氷を眺めたりした後、今回のハイライトである河口と海の境目を撮影しようと河口部へ行ったのだが、強風のせいでめちゃくちゃ寒く、身体は恵まれた皮下脂肪のおかげで平気だったのだが、末端部分である手と足先がとても冷たくなってしまい、自由がきかなくなって来たのである。その上、河口部へ近づくにつれ砂浜は狭くなり、その狭いところへ丸い氷がびっしりと敷き詰められたようになっており、まるで氷で出来たパンチパーマ頭のようであった。こんなツルツルの上を歩くのも危険なので、中途半端な位置から肉眼で観察して適当に写真を撮って終わりにした。さ、さ、さ、寒いっ!

この上を歩くのは無理…

 帰宅後に調べてみると、これらは「ジュエリーアイス(宝石氷)」という名前が付けられており、町の新たな観光資源として注目されているそうである。私が訪れた時は降雪後であったので、大半の氷は雪を被った状態でありあまりキラキラと宝石のような輝きは見られなかったものの、それなりに美しい光景ではありました。

ということで、河口と海の間はこんな具合に氷が割れて海へと流れ出ていると言うことでした。つまり、河口付近では河の上から見ると一面が氷で覆われているように見えるものの、湖の凍結とは異なって実際には無数の氷の塊が一面を覆っているだけである。そしてその下では大量の水が海へ向かって流れているので、上流から流されてくる氷が溜まる一方で反対側では割れた氷がどんどん海へ向かって流れ出しているということである。


2016年2月19日

冷却河川(1)

冬、道路も庭も山も畑も真っ白で全てが凍りついている。凍っていないものを探す方が難しいくらいだ…、と思ったけれど川は全然凍っていない。ときおり氷の塊が流れていることもあるが、川全体が凍ることが無い。飛び越えられる程度の小川だと、川面に雪が積もっているので凍りついているように見えるが、殆どの場合その下には水の流れがある。

川の水が凍らないのは色々な理由があるが、山間部など川の上流部分だと川に流れ込む湧水や支流の温度が結構高い(井戸水の温度相当)ため、気温が相当低くても凍る前に下流へと流されて行き、凍る暇が無いという状態である。中流域になると、水量が増え川も深くなり流れも速く、水同士のぶつかり合いが上流に比べて激しくなるので水温自体がなかなか0℃以下にならず凍らないのである。では下流はと言うと、水温は0℃以下になっている部分もあるが流れの運動エネルギーの総和が増大しているのでやはり凍り難い。そんなに運動エネルギーが大きいのかと疑問に思うかも知れないが、ダムなどで川をせき止めて発電機を回せば相当な電力を生むことを考えれば分かり易い。

もちろん全く凍らない訳では無く、時々川縁で水しぶきが凍って流されて来たり、中洲付近や浅瀬が凍ってしまい、川の流れに対する抵抗が増大したタイミングで全体がめくれるようにはがされて流されて来ることがある。他には、雪が大量に降ると川の表面が雪を融かしきれなくて水自体が徐々に凍ってしまい、流氷のような形の蓮氷のようなものが流されて来ることもある。

では、最下流つまり河口付近だとどうなっているのかと言うと、冷され続けた河の水もそろそろ全体が0℃以下になっており、流れも緩やかになる。そう、凍るのである。河口付近で河が凍るとどうなるか?河が途中でせき止められてしまい上流で大洪水が発生して毎年大変な騒ぎになり全国ニュースで連日報道される。

河口に架かる大きな橋
大きな橋の上から見た海と凍りつく河口

と言うのはもちろん嘘だけど、河口が凍っているのは本当だよん。ちなみに、シベリアにある大河で北極海に注ぐもの(つまり南から北へ流れる河)は、春になると緯度の低い温暖な上流から順に氷が融けて行くので、そのタイミングによっては結氷中の中流域で上流からの水が行き場を失い大洪水が起きることがある。レンスクという町はその洪水で2001年に壊滅状態になったらしい。河の規模が大きくなれば想像を絶する現象が起きるのである。日本にはこの条件が揃う河川が無いと思う。

このように河口付近では、風による冷却、降雪による水面温度低下、水の運動エネルギーの減少、放射冷却効果の増大など、様々な要因によって凍ってしまうのである。ただし、凍っているように見える河も凍っているのはその表面だけであり、氷の下では膨大な量の水が静かに流れているのである。表面が氷で覆われてしまうと、外気と水の接触が無くなり冷却が進まず通常はこれ以上凍ることは無い。

さて、ここで問題です、この先の海は凍っていません、河口は全体が氷で覆われています、ではその境目はどうなっているのでしょうか?

つづく…。