都心でこのような状況だと「なかなか交通の便の良いところに住んでいるね」などと会話が弾むかも知れないが、ここではその距離が問題なのである。そう、どの駅までも40Km以上離れているからである。
その中の一つの駅の近隣に瀟洒なホテルがあり、北海道に住む前にその存在を知りちょっと気になっていたのだが何故か縁が無かったようで利用したことが無かったのである。
昨秋、そこへ宿泊するチャンスが訪れ、嬉々としてお泊りに行ったのである。
羊ホテル |
蔦の絡まる壁面 |
周囲を羊の放牧場に囲まれている |
レストランの食事も大変美味しくとても満足度の高いホテルであった。夕食は羊のグリルと羊のシチューなどをシェアして味い、宿泊客が少なかったせいもあるが、暖炉のあるそのレストランはとても雰囲気が良かった。
翌朝はホテルの人の案内で、長靴に履き替えて羊牧場の中を散策できた。川沿いの広大な牧場には100頭ほどの大小の羊が戯れており、「ああ、昨夜食べたお肉もちょっと前までここで優雅に暮らしていたんだな」と思いながら羊を眺めていたのである。
「食べる対象を間近で見てそれを食する」、なんとも贅沢な響きがあるのだが果たしてそうなのだろうか?
玄界灘を一望できるホテルの最上階で食べた舟盛りは美味しかった。佐渡ヶ島の海辺で荒波を眺めながら食べた甘エビや魚介は絶品であった。土佐湾を望むレストランで太平洋を見ながら食べた皿鉢料理はたっぷり堪能できた。エメラルドグリーンに輝くカスピ海沿いや黒海の帆船レストランで食べたキャビアは心底うまかった。
居酒屋や寿司屋でも生け簀や水槽のある店に行って、泳ぐ魚を見ながら食べる刺し身や寿司は格別な味がするような気がする。
しかしである、魚介類はまさしくそのとおりなのだが、これが哺乳類となると様子が異なる。
毎年恒例の地場産の霜降り肉を使った焼肉大会は、会場前が和牛の農場であり、ジュージュー肉を焼いて食べる私の目に飛び込んでくるのは、ウンコをブリブリしながら口をもぐもぐさせて「モー、モー」と鳴く肉牛である。枝肉番号からも今食べている肉が間違いなくまさに目の前の牧場から来たものだと分かるのだが、特に感動も無く、ましてや贅沢だとは到底思えないのである。
どろ豚牧場で食べたポークステーキも、ホエー豚農場で食べた自家製ソーセージも、やはりブーブー鳴く豚を見ながら料理を食べても、特段感想は無い。
家禽類はどうなのかと言えば、中国奥地へ行ったとき鳥の唐揚げ屋さんの横で生きた鶏も同時に売られていたが、これも牛や豚のときと同じ感想であった。
さて、羊はどうかと言うと、遠くから眺める限り魚介類と同じ感想であり、近づけば近づくほど哺乳類のそれにに近くなるのであった。
別のチーズ工房にいた羊 |
綺麗なホテルだったよ |