2020年12月24日

しさんかさんてつ vs. さんかだいにてつ

調理に使用するフライパンには色々な種類があるが、最近はホームセンターやネットショッピングでもテフロン加工のフライパンが多数を占めていて、いわゆる鉄のフライパンはあまり見かけなくなっている。

確かにテフロンのフライパンは焦げ付かないし、手入れも楽で便利ではある。しかしながら、高温調理が出来ない、差し水などの急激な温度変化を伴う調理方法がダメなど、調理に制限が多いのも事実である。

マーブルコートだの、デュラブルなんとか、ティファーなんとか、と言っても所詮フッ化炭素樹脂をフライパン表面に熱した上でギューッと押し付けて作っているだけであり、その謳い文句とは裏腹に高温に弱いのである。

直火調理の器具が熱に弱いというのはある意味致命的なのではないのか?

 この樹脂を発明したデュポン社の資料によると、260℃で劣化が始まり、350℃で金属表面から剥離するとなっている。通常調理の「平均温度」からすれば260℃に達することは少ない印象を受けるが、実際にはフライパンの局所的にはこの温度を超える部分が出て来るのである。ガスコンロであれば、丁度その炎の先端が当たる箇所などで、食材の隙間が出来て部分的に空焼き状態になっている箇所などである。

常に火加減に注意しながら使用していても、テフロン被膜の劣化した部分が生じて焦げ付き易くなってくる。古いレシピ本などを読んでいると、「フライパンを火にかけ、薄く油煙が出てきたら材料を入れます」などと書かれているが、テフロンのフライパンでこれをやるとダメージは計り知れない。

ティファ−なんとかなど、取っ手が取れーる前にテフロン被膜が取れてしまう。もっとも他のメーカー商品でも同じだけどね。

まあそんなゴタクはどうでも良いけど、やはり短期間で買い直しを迫られる調理器具というのに辟易し始めたので、ここは原点に立ち戻り、鉄のフライパンへ回帰しようと思ったのである。

まずは準備である。

購入したばかりのフライパンは表面に何らかのコーティングがなされているので、これを剥がすところから始めるのである。方法は原始的だけど、紙やすりでせっせと磨くのが一番綺麗に仕上がるようだ。番手は320番辺りが具合がよろしい。

紙ヤスリで磨いたフライパン    
 

透明のコーティングが剥がれ、地金が出て来たフライパン。目の細かいヤスリで磨いたので表面はかなりツルツルである。ここで削れた粉が出るが、乾いた紙などで拭き取るか、裏側から叩けば殆ど取れる。指で触ったり水分が接触しないようにしないと後々困ることになる。

ここから本格的に焼入れを始めるのである。かなりの高温が必要なので、安全装置の付いていない安物のカセットコンロがおススメである。キッチンのコンロで行うと必要温度に達する前に消火されてしまうので意味が無いよ。

 

強火で1分で薄っすら茶色に変化
 
ここまで結構煙が出て躊躇したくなるが、怯まずに強火で頑張って熱し続けるのが肝要である。フライパンの取手は熱でダメになってしまうので、事前に取り外しておくのは勿論である。
 
茶色から青っぽい色へと変化

青い部分が広がる
 
フライパンのサイズにもよるが、3〜5分でここまで変化する。

ちょうど5分でここまで変化した

青い部分が底面全体に広がる

縁の部分まで含めて全体が同色に変化   
 
写真の写り具合で青味がかった色に見えないけれど、フチを含めた全体が先程よりは薄いものの青光りしている状態である。全体にムラが無い状態が重要である

油をたっぷり入れて馴染ませる

火を止めてフライパンがある程度冷えたら植物油を投入する。熱いままだと発火するので注意が必要である。薄っすらと煙が出る程度が良いのではないかと思われる。

ここで油を使い被膜をフライパン表面に形成させるのだが、これは重合反応を利用するので、使用する油は二重結合の数が多い方が有利であり、二重結合を3つ含むリノレン酸、2つ含むリノール酸などの順に良く、オリーブオイルのように二重結合が1つしか無いオレイン酸を多く含む油は適してないよ。まあスーパーの特売のキャノーラ油で十分である。
 
ここでの重合反応は、空気中の酸素とフライパンの熱によって二重結合が切れ他のリノール酸分子と結合して重合反応が進むのを利用しているので、フライパンの温度、馴染ませる時間などが重要になってくる。
 
 あとは冷えるまで放置したあと、残った油はかなり酸化してしまっているので捨てる。その後、表面の油をティッシュなどで拭き取れば完成である。
 
この青黒くなったフライパンの表面は、鉄が四酸化三鉄と呼ばれる鉄と酸素が結合したものであり、この作業によってフライパンの表面に均質にコーティングされた状態になっている。この「しさんかさんてつ」というのはかなり強固な被膜であり、多少の衝撃にはびくともしない上に、この過程を見れば当然であるが高温に対してめっぽう強い。さらに、化学変化にも耐性があるので、中性洗剤などでゴシゴシ擦ってもビクともしない被膜である。
 
焼入れ温度が低いとこの四酸化三鉄が形成されず、通常の酸化第二鉄が出来てしまうのである。いわゆる錆という奴である。「しさんかさんてつ」vs.「さんかだいにてつ」……。
 
肝心の使い勝手であるが、 ほぼ理想に近いのではないかと思う。タマゴもパンケーキも餃子も中華炒めも思いのままである。

テフロンフライパンと異なり、鉄板と食材の間に皮膜があって浮き上がっている感じはしないが、焦げ付くことも引っ着くことも無く、まさに鉄板の上に食材が踊っている感じが伝わってくる感じである。

使用後は熱いまま水を掛けてじゅわーと音を立てて洗い流せば良いし、洗剤を使おうが固い材質のもので擦ろうが全然平気である。あとの手入れもあまり気遣いは要らない。油を塗って置かなくても四酸化三鉄の被膜が地金を守り、酸化第二鉄であるサビが発生することは無い。
 
あー、すっきり調理が出来るフライパンが手に入ったよ!