2013年9月11日

あいさつ

ここしばらくヒグマ騒動で落ち着きの無かった建築現場であるが、今年も建築作業可能日数が残り少なくなりお尻に火がつき始めた私達は、朝の6時50分に現場に到着するという気合いの入った日であった。

早速作業に入るべく現場の2階で作業服に着替えていると、妻が「外で何か変な音が聞こえる」と言う。ヒグマの罠を仕掛けたり、爆音機を設置してもらったりしたせいで、妙に敏感になっているだけだろうと思い、念のためにベランダから外を覗いてみたが何も普段と変わりが無い。気のせいだよと言おうとした瞬間、120m離れた敷地の入口付近に目をやると、なんとヒグマがこちらを見ていた。

「おはようございます」

とでも言いそうな勢いでこっちを向いてヒグマが立ち上がっていたのである。

小心者の私は「く、く、くまだー」と言いながら、一瞬何が起こったのか理解できない状況が2秒程続いたのであった。

安全な2階のベランダから見下ろす熊の姿、恐さよりカメラを持っていない残念さが先に立った。カメラは1階にあるが、取りに行くのは恐い。そうこうしている内に、ヒグマはその場を去り、敷地内から森の方へ向かって足早に去って行ったのであった。



2階の窓から見たヒグマの位置
朝の7時は私達にとっては早朝ではあるが、周囲の農家は日の出の時間帯である4時台から仕事をしているのである。とっくに太陽も顔を出している。どちらかと言えば、眩しいくらいの日差しである。そんな十分明るい時間帯に出没した熊であった。恐らく夜間10分おきに鳴る爆音機を避けつつ、周囲に人の気配の無い時間帯にトウモロコシを狙って現れたのであろう。

後で恐る恐る現場を見に行ってみたら、熊もある程度慌てていたのか少し走って逃げたような足跡が残っていた。

土にめり込む足跡
 熊が立っていた場所から撮影してみると、正面左に見える赤いポールの爆音機のすぐ横である。左方向が町道、右が国有地、正面が番外地(…、つまり私達の敷地)である。

熊が立ち上がっていた場所から
国有地はここから森の手前まで
熊の目線で見ると、国有地の先にある森から出て来て、ちょっと人間の匂いのする場所の先に大好物のトウモロコシが食べ放題の畑がある。昼間は人間(私達のことだよ)が歩いているので迂闊に近寄れないが、深夜に来れば安心して好物が食べることが出来た。しかし先週から夜になると大きな音のする恐い装置が仕掛けられたので近寄ることすら出来ない。仕方が無いので、装置が止まる朝を待って森から出て来て畑に入っていたというところであろう。

そこへ思いもかけない時間帯に私達が現れたので熊もさぞかし驚いたのであろう。建物の2階から覗く私達と目が合ってしまったので、とりあえず「あいさつ」をして慌てて去って行ったということかも知れない。

来週になると、この畑のトウモロコシは全て刈り取られる。熊も危険を犯してやって来る理由は無くなる。私達も不必要に恐れることは無くなる。そしてそのまま冬を迎えることになるだろう。

ただ、それまでは



熊は右からやって来て左の畑に入り、私達はそれと直交する道を通って建築現場に入るのである。残された数日をお互いの警戒心と行動が鬩ぎ合う日々が続くのであろう。

今度出会った時もあいさつを忘れないような関係でいたいなと、…思うか、…な?