そういうのも何だかつまらないなと思い、久しぶりにアナログ腕時計を買ってみた。本当に久しぶりだったので、違和感がたっぷりある。視認性の高いものを探して購入したのだが、見易いのは確かに見やすいのだが、どうも文字盤がゴチャゴチャしている気がするのである。しばらくその理由を考えていたのだが、結論は「時刻を確認するだけなのに、時刻表示の数字が多過ぎる」であった。
多過ぎるとは言っても、12時間制なので数字は12種類書かれている。当たり前である。しかし、本当に時刻を確認するのに12種類の数字が必要なのであろうか?
数字が多過ぎてゴチャゴチャ |
じゃあ、数字が無ければどうかというと
数字ではないが… |
数字の代わりに記号があり、これも当たり前のように12個が描かれている。数字じゃなくなっても、ごちゃごちゃした感じは相変わらずである。
すっきり? |
う~ん、ハズレか |
アナログ時計の最大の特徴である、「パッと見て直感的におおよその数値が読み取れる」という点が欠落しているからである。それでは、どうすれば視認性を犠牲にすることなくすっきりしたデザインになるのかと、暇潰しとは言え、まったくもって無駄なことに膨大な時間をかけて考えてみた。
時計の針は回転運動をしている。そしてその基準点からの角度、つまり針の傾き具合を数値に変換して認識しているのである。人間の直視による角度の読み取り能力は、重力場で生活している関係上、上下方向は正確に読み取れる。そしてその補角である水平方向も、それに準じた精度で読み取ることが出来るのである。
すると、12、3、6、9時の数字は不要では無いか?恐らくそうであろう。では、1、2、4、5、7、8、10、11だけの文字盤なら良いのかというと、12個の数字が8個になっただけではすっきり感が出ないのである。
何が問題なのかと言えば、1と2などのように隣接している数字は片方で十分ということである。ということで、1、2、4、5、7、8、10、11を半減して、1、4、7、10だけで良いのか?それとも、1、5、7、11なのか?いや、2、4、8、11なのか?組み合わせは2×2×2×2の16通りある。 16通り全部を試してみたが、どうも違和感がある。すっきり感はあるのだが、思ったほど視認性が良くないのである。
原因のひとつは、2と8、1と7のようにちょうど180度ずれた対角線上にある数字の組み合わせのみで構成されていると、その隣の時刻を判読するのに一瞬の迷いがあり、時間がかかるというものである。かと言って、全てが180度以外の位置にあると、中心軸の点対称性が強調され過ぎてこれはこれで読みにくいのである。人間の目は本当に面倒くさい仕組みである。
もうひとつの原因は、人間が角度を認識する場合、上下左右である12、3、6、9時以外の時は、その角度が1周の12分の1、つまり1時間分の角度である30度を直感的に認識し辛いということであった。その比較対象が文字盤上に存在していないと認識速度が低下するのである。30度の関係を持つ隣接する数字の組が必要なのである。
そこで、上下左右を除いた数字列で、隣接する数字が一組だけ存在し、不要な対称性が無い位置に数字を配置すれば解決である。数字の数も5個で済むし、視認性もバッチリである。
その結論とは…。
10時10分29秒 |
その理論を用いて作成した時計がこれである。数字が5個しかないので、ごちゃごちゃ感はあまり無い。12、6、9時は省略し、2時と3時で30度の単位角度を一番認識し易い右水平方向(時計が右回りだから)に置いている。2と対称の位置にある8時を廃し7時を配置。1組は必要なので、5時の対称位置である11時を配置すれば、必要最小限の文字数の時計の出来上がりである。
ちなみに、時計の展示やカタログなどで用いられている時刻は全部「10時10分」だと思っていたけれど、 メーカーによってこだわりがあるようで調べてみると各社バラバラであった。セイコーは10時8分42秒、カシオは10時8分37秒、シチズンは10時9分35秒、オリエントは10時10分35秒だそうだ。
12時50分 |
4時40分 |
6時20分 |
9時25分 |
10時50分 |
さらに、さらに、この時計の素晴らしいところは、
全ての数字が素数だけで構成されている
ことである。 なんて美しいんだ!
で、さっそく友人に見せると「何?文字盤の一部が取れちゃった廃品?」って言われてしまった…。が~ん!
この時計以外にも、人間の骨格構造と筋肉の収縮を表す関数と人体の横方向への移動を数式化した関数を使い4つの合成関数曲線上に配置された照明スイッチ群もあるのだが、公開がためらわれる…。