この施設は、個人で維持管理されている温室、いわゆるビニールハウスである。ここの持ち主からこの温室の話を聞いて以来、チャンスがあれば是非拝見したいと心待ちにしていたのである。それがとうとう現実のものとなり、ご厚意で見せて頂く機会に恵まれたのである。もうテンション上がりまくりであった。
外観はごく普通の温室 |
中も普通の畑に見える |
屋根もビニール一枚だけ |
ところがである、この温室はこの真冬の2月にもネギ、キャベツ、小松菜など葉物野菜がたっぷり成長中なのである。いくら晴天率が高いとは言っても、夜の気温はマイナス20℃程度まで下がる土地柄である。どうやって野菜類を夜間の凍れから守っているのだろうか?
初めてこの話を聞いた時、にわかには信じられなかった。普通のビニールハウスで野菜類を通年栽培しているのである、それも石油や電力、もちろん温泉熱も使わずにである。 私が想像していたのは、何重にも断熱層を重ねた大掛かりな設備で、巨大な蓄熱体を擁するものであった。しかし、現物を見てみると想像とは全く異なる、ごく普通のビニールハウスだったのである。それも、かなり年季が入って所々補修痕があるものだったのである。
詳しく聞いてみたところ、このハウスは30年前に建てたもので一度も建て直していないそうである。実際、支柱などはサビだけでなく、苔まで生していたのである。ビニールくらいは何度か張り替えたのか聞いてみても、所々補修用のビニールを充てがっているだけで30年間使い続けているそうだ。触れさせてもらったけれど、特に厚いものでも無くどちらかと言えば頼りないビニールシートであった。
結局、色々見せてもらいながら詳細に話を聞いていると、このハウスは科学的な根拠に基づき設計されており、また地表温度だけに止まらず、地中の温度分布やpHなどの計測なども怠りなく行われており、その数値がびっしりと書かれた記録ノートも見せてもらった。そして、それら養分・熱量・水分そして土壌が極めて微妙なバランスの上に成り立っている、他に類を見ないハウスであることが分かり、感心を通り越して感動してしまいました。すごいの一言だ…。
この日は朝の10時だったが、畑の表面温度は24℃であった。
表皮は痛んで見えるが、中は綺麗な緑色のキャベツ |
土壌改質に余念が無い |
さて、私の最大の関心事であるこのハウスのエネルギー循環だが、要約すると以下の通りである。
熱・光エネルギーは専ら太陽光であり、この地の晴天率をはじめとする変動の少ない日照時間があって初めて成り立つエネルギー収支である。昼間の受光量と夜間の熱損失は、地表の比較的浅い礫層に蓄熱層が形成されており、昼間の熱が夜間に抜け切らないようである。また、水分コントロールが絶妙で、地表部分はほぼ乾燥状態にすることによって凍害を回避出来ている。また、火山灰層を養土下に分布させることによって礫への熱伝導を阻害せず、かつ植物の根の到達範囲に充分な水分を供給出来ている。さらに夜間の保温層としても機能するという、素晴らしいアイデアである。
この地方には土室(つちむろ)という、これと同じような原理の半地下倉庫のようなガラス張りの室があるが、それより手間がかからず熱効率や熱利用状況も優れているようであった。
その後、土壌改良に関する話が続いたが、農業知識全般が見事に欠落している私にはさっぱり分からなかった、残念…。