2018年8月2日

出自偽装

トウキョウトガリネズミ、これが奴の正式な名前である。こいつとの初めての出会いは、私が学生時代にブラックなバイトをしているとき、大雪山の忠別岳近辺で見かけたのである。死体だったが…。

そのとき同行していた人に「これは世界最小の哺乳類である」と教わり、いたく感動した記憶がある。体長わずか4cmほど、体重は2g程度という、哺乳類という単語から想像し難い大きさだったのである。

(c)札幌市円山動物園
しかし、こいつはその大きさ以外にも驚きの事実を持っており、それは「トウキョウ」という名を冠しているくせに東京原産でも東京で繁殖している訳でも無く、ましてや東京で幅を効かせているあのネズミとも何ら関係ないのである(あいつは浦安だから千葉か…)。

 さらに驚くことに、こいつは「ネズミ」を名乗っているものの、実はモグラなのである。東京のネズミという名の北海道のモグラ、出自の全てを偽装している…。この事実を聞いた当時19才だった私は、世の中には色々複雑な事情を抱えている存在があるものだなと、妙な感動を覚えたのであった。

この名の由来は、出版物やネット上の資料にも書かれているとおり、北海道の旧名である蝦夷(えぞ:Yezo)と東京の旧名の江戸(えど:Yedo)を取り違えたのが元になっている。 命名者の悪筆が原因なのか?

 さて、このトウキョウトガリネズミだが、資料によるとどうやら絶滅危惧種らしい。またあまり見かけない動物らしいとも書かれている。しかしである、我が家周辺には割と普通に生息しているのである。

散歩の途中で
雨の日の死体
今日も見た
割と良く見かける
猫にやられたようだ
 と言うのも朝晩の散歩の途中で見かけることが多いのである。毎日出会う訳ではないけれど、一ヶ月に一度か二度程度であり、多いときは毎週見かけることがある。死因だが、ごく稀に傷を負った死体があって、これは捕食されていないことから猫に弄ばれたのではないかと思う。ほとんどの場合は無傷で道の真ん中にコロンと転がっている。この場合の死因は病死か餓死と思われる。

ネズミは貯食が出来るし食い溜めも出来る、一方モグラの仲間は皮下脂肪が乏しくエネルギーを体内に蓄え難い構造をしているのである。つまり食い続けていなければ死んでしまうのである。空腹のままだと2~5時間という非常に短い時間しか耐えられないそうだ。

ということで、恐らく縄張り争いか餌不足などで地上に出てきてそのまま絶命したと思われる。

死因は想像出来たが、不思議なのはトウキョウトガリネズミの死体がいつまで経っても路上に放置されている理由である。キツネなどはネズミや小動物を捕食するし、このトウキョウトガリネズミも小さいながらも栄養源にはなると思われるのにである。もちろんキツネやカラス、猛禽類までこの辺りにはたくさん生息しているのに、誰もこいつを食べようと思わないらしい。

で、気になって調べてみたら、どうやらトウキョウトガリネズミには哺乳類では珍しく唾液腺から毒を出すらしい。神経毒の一種らしく、ひょっとするとこいつの死体を食べると大変なことになるかも知れないと捕食者達は知っているのかもしれないな…。