余っているとは言っても有り余っている訳では無く、残りを他の事業に効率良く回そうという目論見である。そのひとつが、薩摩芋の貯蔵である。北海道で薩摩芋が出来ること自体驚きだが、実際に根強い需要はあるらしい。事実、薩摩芋が栽培出来なかった90年前に薩摩芋が全く使われていない「サツマイモの味がするお菓子」が開発されて、それは今でも販売されていることからもうかがえるのである。ガンモドキと同じような発想なのか?
この薩摩芋の貯蔵だが、もともとが熱帯性の植物のせいだからか、貯蔵温度が12℃を下回ると寒害(初めて聞く言葉だ…)により腐敗してしまうらしい。かと言って16℃以上だと芽が出てしまうらしい。さらに湿度も重要で適切な温湿度管理が要求されるという、非常に面倒くさいイモである。北海道のような寒冷地で冬の期間に貯蔵しようと思うと、貯蔵庫に費やす熱エネルギーが膨大な量になりコストがかさむことになってしまう。なので、ここの施設のように安定した熱源があればコスト的に有利になる(はず)。
さて、私の嫌いな薩摩芋の話はどうでも良い。この他の熱利用が面白いのである。それは、キャビア製造機である。まあ一般にはチョウザメとも呼ばれているが…。
チョウザメの飼育槽 |
キャビアの元がうじゃうじゃ |
浮遊するキャビアの容器 |
キャビアと言えば、20年ほど前に黒海、カスピ海周辺からユーラシア大陸奥地までキャビア三昧の旅行をしたことを思い出した。あの頃はソ連崩壊後の混乱経済からまだ抜け出せていない国々が多く、恐ろしいほどのインフレが万延していたのである。
インフレとキャビア、一見何の関係も無さそうであるが、現地の人々には申し訳ないが旅行者にはとても嬉しい状態だったのである。それは、超格安でキャビアが食べられたからである。それも日本に輸入されているような塩分の濃い缶詰キャビアでは無く、生キャビアや瓶詰めの塩の薄いものなどが食べ放題状態だったのである。もちろん混乱経済下では物流も機能不全に陥っていたが、「ある所にはある」という状況であった。
市場やレストランに行っては「キャビアはある?」と聞きながら、観光そっちのけでキャビアを探しながらウロウロしていたなぁ…。漁師に直接聞きに行ったこともあった。国立博物館に行った時も、折角専門員が説明してくれていたのに、私はキャビアのことばかり聞いていた気がする。もうキャビア一色であった。
ある日、市場で生キャビアに出会った時は狂喜乱舞しながら600gも買い込んだことがあった。旅行者なので冷蔵庫に保管することも出来ず、生キャビアなのでそんなに日持ちはしないし、まさかレストランへキャビア持参で行く訳にもいかず途方に暮れたこともあった。結局、後先のことを考えずに買い込んでしまった大量のキャビアと途中で買ったパンとワインを手にホテルへ戻り、黙々と食べ続けたのである。
最初の100gはたいへん美味しい。次の100gもやはり美味しい。その次の100gも美味しいけれど、やや胃がもたれてくる。さらに100gを食べると、ちょっと休憩をはさまないと食べられなくなる。さて、残りの200gをどうしようか?と悩んだのだが、ここで食べておかないと一生後悔するような気がして、頑張って全部食べたのである。もはや最後の方は味がさっぱり分からないばかりか、胃から逆流の気配が…。いじましい私は必死でその胃の反乱に耐え、そのままベッドに倒れ込むように入って寝たのであった。
翌朝は意外とすっきり目が覚めた私は、あろうことかまたキャビアを探しながら街をウロウロしていた。数日後、再びキャビアを発見したので買い込みさらにイクラまで買ったのである。 あの都市にはビザ申請の関係で長く滞在していたが、ひたすらツブツブを食べていたようで、他の記憶がほとんど無い始末である。それにしても、うまかったなぁ。
と、そんなことを思い出しながらこの施設を見学していた。ここでキャビアの大量生産が可能になれば気軽に食べられるようになるのだろうか?
チョウザメは実は鮫では無く、 硬骨魚類の分類群の一つらしく古代魚とよばれるものの一種らしい、身も鮫のようなアンモニア臭が無く淡白な白身魚である。寿命は驚くことなかれ、30年から50年くらいだそうだ。そう言えば鯉も長寿だよな…。また、現在は絶滅してしまったが北海道でも獲れた時代があるそうだ。アイヌ語にチョウザメを現す「ユベ」があり、チョウザメがいる所という意味の「ユベオツ」が各地の地名に残っている。江別市、網走の湧別、滝川市江部乙など。
ちなみに、キャビアの一番美味しい食べ方は、焼き立てのマフィンにバターをたっぷり塗ってキャビアをこぼれる程乗っけてレモンをちょいと絞ったものが最高だと思う。その次は、やはり「そのまま」スプーンですくって食べることかな、ただし量が少ないと大変虚しい思いをすること間違い無しである。寿司には意外と合わないと思う、イクラは合うのにね。
ということで、牛のウンコを回すと、文字通り回り回ってキャビアになるのであった。