2018年2月28日

エネルギー循環施設(2)

さて、ウンコで発電機を回して得た熱でマンゴーが安定して収穫できるようになったが、実はまだエネルギーが少し余っているのである。

余っているとは言っても有り余っている訳では無く、残りを他の事業に効率良く回そうという目論見である。そのひとつが、薩摩芋の貯蔵である。北海道で薩摩芋が出来ること自体驚きだが、実際に根強い需要はあるらしい。事実、薩摩芋が栽培出来なかった90年前に薩摩芋が全く使われていない「サツマイモの味がするお菓子」が開発されて、それは今でも販売されていることからもうかがえるのである。ガンモドキと同じような発想なのか?

この薩摩芋の貯蔵だが、もともとが熱帯性の植物のせいだからか、貯蔵温度が12℃を下回ると寒害(初めて聞く言葉だ…)により腐敗してしまうらしい。かと言って16℃以上だと芽が出てしまうらしい。さらに湿度も重要で適切な温湿度管理が要求されるという、非常に面倒くさいイモである。北海道のような寒冷地で冬の期間に貯蔵しようと思うと、貯蔵庫に費やす熱エネルギーが膨大な量になりコストがかさむことになってしまう。なので、ここの施設のように安定した熱源があればコスト的に有利になる(はず)。

さて、私の嫌いな薩摩芋の話はどうでも良い。この他の熱利用が面白いのである。それは、キャビア製造機である。まあ一般にはチョウザメとも呼ばれているが…。

チョウザメの飼育槽
 
キャビアの元がうじゃうじゃ

浮遊するキャビアの容器
 この水槽群にそれぞれ年齢別にキャビアの元が泳いでいた。ここでは水温と成長の関係、産卵に適した水温管理などが研究されておりなかなか興味深かったのである。

キャビアと言えば、20年ほど前に黒海、カスピ海周辺からユーラシア大陸奥地までキャビア三昧の旅行をしたことを思い出した。あの頃はソ連崩壊後の混乱経済からまだ抜け出せていない国々が多く、恐ろしいほどのインフレが万延していたのである。

インフレとキャビア、一見何の関係も無さそうであるが、現地の人々には申し訳ないが旅行者にはとても嬉しい状態だったのである。それは、超格安でキャビアが食べられたからである。それも日本に輸入されているような塩分の濃い缶詰キャビアでは無く、生キャビアや瓶詰めの塩の薄いものなどが食べ放題状態だったのである。もちろん混乱経済下では物流も機能不全に陥っていたが、「ある所にはある」という状況であった。

市場やレストランに行っては「キャビアはある?」と聞きながら、観光そっちのけでキャビアを探しながらウロウロしていたなぁ…。漁師に直接聞きに行ったこともあった。国立博物館に行った時も、折角専門員が説明してくれていたのに、私はキャビアのことばかり聞いていた気がする。もうキャビア一色であった。

ある日、市場で生キャビアに出会った時は狂喜乱舞しながら600gも買い込んだことがあった。旅行者なので冷蔵庫に保管することも出来ず、生キャビアなのでそんなに日持ちはしないし、まさかレストランへキャビア持参で行く訳にもいかず途方に暮れたこともあった。結局、後先のことを考えずに買い込んでしまった大量のキャビアと途中で買ったパンとワインを手にホテルへ戻り、黙々と食べ続けたのである。

最初の100gはたいへん美味しい。次の100gもやはり美味しい。その次の100gも美味しいけれど、やや胃がもたれてくる。さらに100gを食べると、ちょっと休憩をはさまないと食べられなくなる。さて、残りの200gをどうしようか?と悩んだのだが、ここで食べておかないと一生後悔するような気がして、頑張って全部食べたのである。もはや最後の方は味がさっぱり分からないばかりか、胃から逆流の気配が…。いじましい私は必死でその胃の反乱に耐え、そのままベッドに倒れ込むように入って寝たのであった。

翌朝は意外とすっきり目が覚めた私は、あろうことかまたキャビアを探しながら街をウロウロしていた。数日後、再びキャビアを発見したので買い込みさらにイクラまで買ったのである。 あの都市にはビザ申請の関係で長く滞在していたが、ひたすらツブツブを食べていたようで、他の記憶がほとんど無い始末である。それにしても、うまかったなぁ。

と、そんなことを思い出しながらこの施設を見学していた。ここでキャビアの大量生産が可能になれば気軽に食べられるようになるのだろうか? 

チョウザメは実は鮫では無く、 硬骨魚類の分類群の一つらしく古代魚とよばれるものの一種らしい、身も鮫のようなアンモニア臭が無く淡白な白身魚である。寿命は驚くことなかれ、30年から50年くらいだそうだ。そう言えば鯉も長寿だよな…。また、現在は絶滅してしまったが北海道でも獲れた時代があるそうだ。アイヌ語にチョウザメを現す「ユベ」があり、チョウザメがいる所という意味の「ユベオツ」が各地の地名に残っている。江別市、網走の湧別、滝川市江部乙など。

ちなみに、キャビアの一番美味しい食べ方は、焼き立てのマフィンにバターをたっぷり塗ってキャビアをこぼれる程乗っけてレモンをちょいと絞ったものが最高だと思う。その次は、やはり「そのまま」スプーンですくって食べることかな、ただし量が少ないと大変虚しい思いをすること間違い無しである。寿司には意外と合わないと思う、イクラは合うのにね。

ということで、牛のウンコを回すと、文字通り回り回ってキャビアになるのであった。

2018年2月27日

除雪壁

ここは札幌や旭川に比べると降雪量は大したことが無いが、極寒地なので降った雪がそのまま地面に残っており、また雪質はサラサラの所謂パウダースノーである。そして我が家の周囲は360度牧草地に囲まれている。

この状態で風が吹くと、畑の上に乗っかっているだけのパウダースノー達がすごい勢いで畑を駆け抜け、そして我が家の敷地に吹き溜まるのである。 


敷地内、途中から先が見えない
我が家の玄関は、町道から入って敷地内を124m進んだ所にある。私有地なので本来であれば自力でこの距離を除雪しなければならないのだが、この町は何故か敷地に入って来て玄関前まで除雪してくれるのである。おかげで我が家の除雪は、ものの数分あればスコップひとつで完了する。もう感謝感謝です。

しかしである、その除雪してくれるのはとても大きい除雪車なのである。


6輪駆動
玄関前まで除雪してくれる

ぐおんグオンと音を立ててすごい勢いで除雪してくれるのである。もはや人力の及ぶ所では無い。

人力で除雪を試みると遭難する

 この巨大除雪車は街中では滅多に見かけないけど、国道の峠や幹線道路で見かける大型車である。

そっか、我が家は山間部の国道並みなのか…。

 毎冬お目にかかるし、私には馴染みの除雪車であるがその名前が分からなかったのである。その後、調べてみると、全長11m86cm、全幅3m10cmという巨大な除雪車で、その名を「クオン」というらしい。そっか、名は体を表していたのか…。

 先日、夕方まで結構吹雪いていたのでロプノールの散歩をどうしようか迷っていたら、薄暗くなりかけた頃に除雪車が来てくれた。しかしである、何か様子がいつもと違ったのである。普段なら町道からグオングオンと頼もしい音を立てて、124mを除雪しながらそのまま一気に玄関先まで進んで来るのだが、この日は違った。敷地の入り口から60m程の所まで何度も往復していたのであった。

家の中から外の様子をうかがうと、すごい勢いで盛り上がる雪の山と、姿は見えないけど除雪車の作業音だけが鳴り響いていた。

もちろん、私には何も出来ずただ単に眺めていたのであった。その作業は20分程続いたあと、突然音が聞こえなくなった。そして暫くして見えたのは、町へ引き返して行く除雪車の姿であった。

ええっ???

一体どうしたんだろうと思いながら外に出て見えたものは、巨大な雪山で塞がれた我が家の敷地であった。
道が塞がれている?
我が家の敷地内の道路に標高2mの大きな雪山が出現していた。
え?完全に道が塞がれているではないか?

道が塞がっているよね?

ロプノール、飛び越えろ!
ボ、ボクには無理です
 高さが2m、幅が7m、何とかなるかなと思って雪山の奥を見ると、この壁面から向こう側に奥行き20m程もある雪山だったのである。おまけに除雪車で押しやって来た雪なので非常に柔らかく、乗り越えるのは無理であった。流石の大型除雪車も、この雪の量では除雪しきれなかったようである。 

 さて困った、車どころか徒歩でも抜けられそうに無い。地味に軟禁状態である。

万一、何かが起こっても救急車もパトカーもやって来れないよな…。今のうちに避難しておくしか無いのか?でも、どこへ?そもそも、どうやって?

そうこうしている内に、別のタイプの除雪車がこちらに向かって来るのが見えた。 どうやら先の除雪車のオペレータが町へ引き返して別の除雪車に乗り換えて戻って来てくれたようであった。今度の除雪車は大きさは先程のとあまり変わらないが、先端部分が雪を押すタイプでは無く、いわゆるブルドーザーのような巨大ショベルをつけた除雪車であった。


玄関モニタの向こうで頑張る除雪車
この除雪車もすんなりとは行かなかったが、それでも徐々に雪山を崩して行った。既に外は暗くなっており、その暗闇の中を除雪車は黙々と作業をしていた。そして25分後、あの巨大雪山はついにその姿を消していた。どうもありがとうございます!

そして除雪車は黙って来た道を静かに帰って行った。

なんかかっこ良いな!

エネルギー循環施設(1)

先日、とあるエネルギー循環施設を見学する機会があり、なかなか興味深いものを見せてもらえたのである。

続けざまに「先日、とある…」から始まっているブログだが、いったい「先日」に何が起こったのだ?と思うだろうが、偶然色々な施設を見る機会がまとめてやって来ただけである。いや、それはそれでとても面白かったよ。

さてこの施設だが、 酪農王国の地らしく家畜の糞尿処理と再生エネルギー活用という、ごくありふれたものであった。しかし、その副次エネルギーの活用方法が面白く、また私の今後の計画に大きく役立つものであったのでとても嬉しかったのである。



糞尿槽

研究棟
糞尿処理施設へは近隣農家から専用のダンプカーや糞尿運搬車などで運び入れられる。その糞尿は好気性バクテリアが活動するタンクで数日撹拌され、その後嫌気性バクテリアが活躍する密閉タンクへ送られる。ここでは38℃程度の恒温槽(って言うのかな?)で20日前後撹拌されるのである。

牛のお尻からお別れしたウンコは、ここで1ヶ月近くもグルグルぐるぐる回りっ放しである。もうドロドロのぐっちゃぐっちゃである。さらに発酵しているものだからガスもブクぶくブクぶくと出っ放しである。ぐるぐるぐちゃぐちゃぶくぶく。

今後、乳製品や牛肉料理を食べるときは、このシーンが頭に浮かんでしまうんだろうな…😱。

さて、ここで絞り出されたガスはメタンガスが主であり、これを脱硫(硫黄成分を除去すること)したのち、ガスタービンもしくはガスエンジンに送られ、今度はウンコじゃ無く発電機を回すのである。

この時、大量の廃熱がエンジンと発電機から放出されるが、これを熱交換器を通して隣接する農業施設へ送るのである。


温室と農作物
ここは温室なので晴れている日中はそれだけで十分暖かいのだが、夜間などは先程の回収した廃熱を用いて温室内の温度を一定に保つのである。その温度とは、

なんと37℃であった。

ここまではどこの処理施設にもあるようなありふれた光景なのだが、この施設のすごい所は、冬の暖房だけでなく夏の冷房にも同じ熱交換器を使っているのである。つまり、冬は温室内を真夏の温度に保ち、夏は真冬の温度に保つのである。

その結果、北半球と真逆の気候が人工的に作り出せるということである。それも廃熱という通常ならその名のとおり廃棄される熱を使ってである。ちなみに冷房は、この寒冷地の特徴を生かして冬の間に貯蔵した雪と氷を用いるのである。冷房、暖房その両方を廃用エネルギーを使って農作物を栽培している。

なぜ夏冬を逆転させているかと言えば、それは「オフシーズンに最盛期を迎える作物は高値で売れるから」である。

では、ここでは何を作っているのかというと、それはマンゴーである。そしてその売値は高いものでひとつ3万円だそうである。すっげー!

ちなみに、冷静な目でここの発熱量、熱交換器の効率(型番からメーカー公表値が得られる)、温室の熱損失などを計算してみると、エネルギー収支は微妙にマイナスな結果になる。私の計算が間違っているのかも知れないけど、大きくは外れていないと思う。

さて、この施設を見学して得られたものは、これも私の今後に大いに役立つものであったが、言うまでも無く、私は農業には全く興味が無いので、これと同じようなものを作ろうとしている訳では無い。うむ。

2018年2月26日

福祉施設

先日、とある福祉施設の中を拝見する機会があり、そこでなかなか興味深いものを見つけたのである。

それは、フローリング張りの大きなホールの隅に設置されていたキッチンの流し台であった。それ自体はごくありふれた普通の流し台であったのだが、その構造が面白かったのである。

なんと可動式のキッチンだったのである。

キッチン流し台
 この流し台の底を覗いてみると、

底に何かが見える…
 さらに近付いて見ると

配管類が見える
床からGネジの配管とボールバルブでフレキシブルパイプを接続しているのである。これが何を意味するかと言えば、バルブは手で簡単に締まる。さらにGネジなのでパッキンを挿んでいる構造だから、再接続時にシール作業が不要である。つまり緩めて締めるだけである。排水管がはっきり見えなかったが、差し込み式なので、こちらも素人作業で抜き差し可能である。

最初、これが可動式だと聞いたときは、きっとボールジョイントなどの専用接続具を使っているのだと思っていたが、普通に入手可能な水道工事器具だけで実現しているとは思いもしなかった。これだと移設時に業者に依頼すること無く、一般職員の手で作業可能だ、すごい!

そもそもこの福祉施設を訪れた目的は…、えっと何だっけ?

私はこの施設を訪れる一行に成り行きで同行しただけで、ここが何処で誰が何の目的で見学したのか、全然理解していませんでした、ははは。

邪魔はしなかったと思うけど、自信は無い…。

それにしても、このアイデアは今後のために大変役立ちました。

2018年2月20日

農業研修施設

先日、ひょんなことから農業研修施設へ行く事になり中をじっくり拝見させてもらった。もちろん言うまでも無く私は農業に興味がある訳では無いし、その関係で訪れた訳では無い。

訪れる前の印象とは随分異なり、なんだかおしゃれな雰囲気がたっぷりであった。最近のこの手の施設って色々趣向が施してあるんだなと感心していると、この建物の設計者が居合わせたので聞いてみたところ、築15年の施設だということであった。意外と古いな…。

その時代背景を考えてみると、バブルに踊らされて作ってしまった訳でも無さそうである。それに良く見ると各所にコストを意識した設計になっている。基本的なコンセプトは良く分からなかったが、なかなか地に足が着いた地道な設計施工のようだ。


建物の中から見た中庭


建物自体は中庭を擁する外周部分に研修室、宿泊施設、ホールなどが配置され、レストランも併設されている2階建てである。構造自体がおしゃれなんだ。部分的に鉄骨が剥き出しになっている所もあるが、周囲の木目と色調を合わせて塗装されており、ここにも地道なコストダウンがはかられていた(本当に安いかどうかは知らん)。


謎の外向き長テーブルと椅子群
ホールの端に20mくらいの長いテーブルが外に向いて設けられており、個々にある目の前の窓から外の綺麗な景色が見える。その目的を聞いて少し笑ってしまったのは内緒。


ホール

世の中には未発表・未公表の建造物が少なく無いが、中には興味をそそられるものもある。今回の建物もその一種だったように思う。今後のためにこの施設を見学したのだが、とても役に立った気がする。


今後?それはまたいずれ。