このブログで出現頻度の高い単語に「僻地」があるが、僻地とは一体何だろうと自問自答してみるまでもなく、一般的には不便だとか寂しいとか、面白く無い等という修飾子を持って語られるような環境のことであろう。私は僻地が好きなのでは無いが、私の好きな環境は僻地と呼ばれているのである。
で
は、僻地を辞書を引いてみると「交通条件や、自然的、経済的、文化的条件に恵まれない山間地や離島などの地域」と出ている。どこをどう解釈すればそんな定義になるのかは知らないが、交通条件ひとつ取っても現状を何も現していない。何しろ渋滞が無い、道幅が広い、信号が少ない、車が少ない。どこが恵まれないんだか…。自然的って?これだけ自然環境に恵まれた所も滅多にあるもんじゃない。経済的にも文化的にも僻地とそうでない所との差など何もない。どこをどう取ってもメリットばかりではないか。
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僻地にある我が家の裏庭の様子(熊の生息地とも言う) |
まあそんな定義めいたことはどうでも良いが、この開放感や美しさの中で生活出来るというのは何物にも替え難いのである。しかし、ひとつだけ困ったことがある。それはネット環境である。
巷では光ファイバーのGbpsやWiMAX、LTEなどの数100Mbpsの快適な速度環境がさも当り前のように語られているが、こればかりは(
ある程度の政策があるとは言いながらも)結局は営利目的が根底にあるインフラなので、対人口比が最大かつ唯一の決定要素になってしまう。人口密集地の集合住宅だと、光ファイバー1本をすぐそばにある電柱から引き込み建物の入口にVDSL装置を設置して各戸へ分配すれば、限りなく低いコストで十数軒分の月額料金でインフラ維持コストと十分な収益が見込まれる。ライトワンマイルどころが、ラスト10mではないか。それに比べて、ここだと10Kmの光ファイバを引っ張って来ても1つか2つの接続しか確保出来ず、全く採算が取れない。
光ファイバが無理でも、絶滅危惧種のADSLがあるじゃないかと思ったが、距離に比例して減衰する上に周囲の環境に大きく左右される通信方式なので収容局から数キロメートル離れると実用的な速度が確保出来ない。我が家などは、速度の確保どころか通信出来るかどうかさえ不明な距離である。1Km手前の隣家では絶望的な速度だったらしいので、我が家では望むべくも無い。
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隣家と我が家専用の電柱、電線 |
いや、それ以前にNTT東日本に電話線について問い合わせたとき「
そのような住所に該当する家屋はありません」と回答されているような場所なのである。通信手段が云々という以前に、契約方法に疑問が生じているではないか…。
前世紀の接続手段であるISDNという手もあるが、光ファイバの1000分の1程度の速度で実用に耐えない。検討する価値も無い。64Kbpsでいったいどうしろと…。
その他に、農村地域高速無線インターネットというものがある。サービス会社の案内によると、
ADSL
やBフレッツがご利用できない地域でも、より快適にデータ通信を行うことができる高速な無線通信システムです。特に遠隔地や山間部など有線方式が困難であった地域において、本システムを利活用することにより、光ファイバー等の敷設費用に比べ、ユーザーあたりのコストを抑えたインターネットアクセスが可能になります。
正体は5GHz帯を使ったFWA(Fixed Wireless Access)と言われるもので、LoSかnLoSによっても異なるが通信の安定性で多少の問題がある。天候や雑電磁波の影響も無視出来ない。これは、ネット環境が発達していなかった10年前に、北海道移住の検討事項として調べて分かったことである。その時、北海道でかなり初期の頃から導入していた別海町役場で実機を見せてもらう機会があった。機材はイスラエルのAlvarion社のものであった(よその役場で何をしているんだか…)。結構目障りなサイズの平面アンテナや機材の特殊性を見ていると、私の環境に導入しても早晩投資が無駄に終ると思われたのであった。
当時は光ファイバーも大都市のみのサービスであり、LTEは開発中、WiMAXもまだ市場へ投入される前だったので、この「農村地域高速無線インターネット」は有望であったかも知れないが、WiMAXやLTEがこれだけ普及した現在では、(固定と移動体の違いはあるが)商用サービスとしては将来に明るい展望が見えない。
それからしばらくして、2009年に北海道豚丼市に引越しした頃には地方都市部にも光ファイバーが張り巡らされ周囲の町村にも徐々に広がり始めていた。しかし、
原野でさえ光ファイバーがやって来るこの時代に、建築中の我が家には光どころかADSLさえ無い状態が続いていたのであった。
他手段の
衛星を使ったネット接続サービスは当時は現実的では無かったし、携帯電話の通信網は従量制でコストに見合うだけの性能が出なかったのである。
ところが、私の普段の行いが良いせいなのか、
この家がなんとか住める状態になって引越しして来る直前に、DoCoMoの通信網を利用したMVNOサービスが始まったのである。なんと良いタイミングなんだろう。
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このSIMカードで通信する |
これは携帯電話の通信網を使うものでキャリア(DoCoMo, au, Softbankなど)が自社の回線の余剰分をMVNO事業者へ貸し出し、それを一般消費者へ細分して通信サービスを行うというもので、私の予想を遥かに下回る価格での提供であった。月額900円(税込み972円)で1GB/月である。普段使う必要最小限の通信量は確保出来る。価格や通信方式に疑念が無いでもなかったが、将来の光ファイバまでの「繋ぎ」と割り切って使ってみることにした。
家屋自体には、将来来るであろう光ファイバのために地下埋設の引き込み口を設け、室内の導入管も敷設済みでありリードまでセットして待ち構えているのである。工事が始まっても、家の中のリードを引っ張るだけで光ファイバの工事が終了してしまうという、文字通り手ぐすねを引いて待っている状態である。光ファイバが来るまで、この携帯電話網の使い心地でも確かめてやるか、と余裕のスタートであった。
これまで光ファイバの環境だけで生活していたのでこれと比較にはならないものの、ADSLにさえ見捨てられたこの地では予想を越える使い心地であった。使い始めてしばらくすると、料金据え置きのまま通信容量が増えて2GB/月になり、その後には3GB/月へと増量されて行った。速度は時間帯にもよるが、3G環境下で概ね4Mbps程度出ている。有線ルーターを使っているので24時間接続状態である。
なんとかなるもんだな…。